2025年11月24日月曜日

音楽ディープスポット(3)仙台高専DTM部「ずんだもんアルバム」

仙台高専のDTM部が、ずんだもんのアルバムを制作されたそうです。おめでとうございます。

ずんだもんのモチーフとなっているずんだ餅は仙台のものなので、仙台の高専生がそのアルバムを作ると、他地域の高専生が作るのとは違う意味が付与されて、それが音以外の魅力になってきます。こうのっていいですよね。ちゃんとローカルに根差しているプロダクトであること、この地域の高専生がやる必然性があることがオーラや魔力となって曲にまとわりつくというか…。

アルバムの収録曲は基本的にどの曲もメロディと耳当たりが良くて、肩の力を抜いて聴けるポップスとして優秀です。地方のスーパーでかかっているフュージョンの癒し効果に近いかもしれません。

その中でも特に素晴らしかったのが4曲目の「近所にイオンができました!」。

タイトルの通り、「近所にイオンができた」というシンプルな喜びを歌っていて、これが泣きそうになるんですよね。子供の頃に、ご近所さんや親族が「あそこに○○ができるらしい」とザワついていたあの感じ、地域が少しだけ浮足立ってるワクワク感を想起させます。この雰囲気を一番ピュアに受け取れるのは子供だと思うので、そういう意味でこの曲は一種のノスタルジーの類なのではないでしょうか。

現実的にはイオンが商店街をはじめとする地域特有の文化をぶっ壊してしまうとか、そういった問題は山ほどあるんですが、地域の人にとっては「便利になるぞ!」という喜びもリアルな感情です。HASAMI groupでは街が変わりゆく切なさを曲にすることが多いのですが、逆に「街が変わってうれしい!」という感情はなかなか描けないものなので、そこに自分が表現できない魅力を感じます。その感情、切り取っていいんだという。「街が変わってうれしい」みたいな感情は資本側や企業がテーマソングとして作ることは多々あるんですが、消費者側がそれを作品にしているのはあまりみない気がします。

もちろん、この曲を皮肉的に捉えることもできると思います。外部の人(一部の内部の人)は「イオンが昔ながらの商店街を破壊する!」「イオンが文化を奪う!」と批判するけど、多数の地元住人が持つ「結局イオンができてしまえば便利でうれしいんだ」という本音にスポットを当てることは、資本主義に懐柔されていく人間の物悲しさも表現されています。

「近所にイオンができました!」は、地域に暮らす人々の健気な感情、その健気さからくる人間の物悲しさというコインの裏表のような味わいを内包していると思います。だからこそ、一見明るくて素朴な曲調の裏に(意図的か意図せずか)哀愁が漂っていて、不思議な奥深さと魅力を感じさせるのではないでしょうか。令和の民芸。

ほかにも、「イオンのネットミーム的な側面とずんだもんの相性がいい」「イオンの商業的なカラーとドンキのテーマソングっぽい曲調の相性がいい」といった奇跡的な噛み合わせの良さも曲の魅力を高めている気がします。



【注意! ここから下は急に攻撃的になります。】

最近は東京の少しマイナーな地名をタイトルにして、「なんでもない街のエモさ」「日常のかけがえのなさ」を表現してますという雰囲気だけ出して、実際は最近流行りのシティポップ風エセJ-POPの薄っぺらい感じ(MVのサムネにかわいい子を映して再生数を回そうとしている)という曲が多く、これは「街の音楽」のフリをした「街を冒涜している音楽」なのでは?と思ってしまう瞬間も多々あります。本当の「街の音楽」って「近所にイオンができました!」のような作品なのではないかと感じるのですが、皆さんはどう思うか。



●過去のシリーズはこちらからお読みください。

【音楽ディープスポット(1)】YURIE「オ​マ​エ​モ​ナ​ー」

【音楽ディープスポット(2)】V.A.「BACKEN RECORD vol.1」