2026年6月7日日曜日

【新コーナー】現代動画思想①「Michael Jackson の死を知った場所」の説明しがたい魅力について


【動画の概要】

新幹線の車内電光掲示板でマイケル・ジャクソンが死去したニュースが流れた瞬間を映した20秒程度の動画。映像自体は2009年6月のものと思われるが、マイケルの死から1年後の2010年6月にアップされている。概要欄には「自分がマイケルの死を知ったのは、こんな場所でした。東京から新大阪へ向かう新幹線の車中」と記されている。資料的な価値を指摘する人が多いが、それ以上の何かが人々の胸を打ち、現在221万回再生されている。


【この動画をなぜ「いい」と感じるのか】

この動画は「哀愁」「懐かしさ」を主としながらも、それ以外にも何かありそうな、説明しがたい強烈な魅力を放っているように感じる。どこか心地良さもある。これがなんなのか考えてみたいと思う。

この動画の面白いところは、映されているものがどことなく自分の記憶であるように錯覚しそうになる点である。自分だけの感覚なのか?とも思ったが、コメント欄にも「子供の頃新幹線の車内ニュース見るの新幹線に乗ってるって感じられて好きだった」と昔の記憶を疑似体験している人がいた。少し違うが「親が『マイケル死んだってよ』って伝えてきた時、ガチで時止まったのを鮮明に思い出す」「私は親と山形のさくらんぼ狩りのバスツアーの時に親と親の友達が喋ってるのを聞きました」と、自分の中に実存する記憶が呼び起されたという人も多かった。

自分の記憶であるように錯覚しそうになる理由は「①人間が映されていないファースト・パーソン・ビューであること」「②テレビのようなキレイな映像ではなく、その時代に我々が所有していたスマホやカメラと同一の画質で残されていること」の2点が大きいような気がする。②は特に重要で、まさに2009年頃に私がデジカメで覗いていた世界と同じ画質なので、その時代の日常にスッと入り込める。

この動画は上記のようなノスタルジーを強烈に感じられるのが最大の魅力であり、芸術的・美術的な側面での価値はそこまでないように思える。最初、私はこの動画を観たときになんともいえない奥深さを感じ、どこが芸術的で、どのような映像的魅力があるのかという視点で掘り下げようとしたのだが、深く考えれば考えるほど、もっと感覚的な……言ってしまえばドパガキに近い消費の仕方をしていることに気付いてゾッとした。強烈なノスタルジーに気持ちよくなってしまっているだけなのだ。

ノスタルジックな記憶を思い出すと、ドーパミンなどの快楽物質が放出されて高揚感や心地よさが得られるという研究結果がある。郷愁は有用な感情戦略にもなり得るし、有害な依存症にもなり得るという。ノスタルジアは社会的帰属意識を肯定し、孤独感を和らげることで、私たちの精神的健康に良い影響を与える心理的な適応メカニズムだとも言われている。

https://www.neurologylive.com/view/brain-and-nostalgia

https://www.apa.org/topics/mental-health/nostalgia-boosts-well-being

結局、我々大人が画質の粗い2000年代の動画や懐かしいCMダイジェストをYouTubeで漁って「なんかいいわあ」としみじみしたり、郷愁に胸を苦しくさせていることは、現代の子供たちがショート動画やスマホゲームなどの刺激の強いコンテンツに依存していることと本質的には同じで、Z世代をドパガキとバカにできる立場ではないような気がする。このタイプのドーパミンに依存している大人(ドパアダルト)たちは「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」に登場する“オトナ”に近い。「オトナ帝国」は今となっては「ドパガキ問題」を本質的に先取りした映画で、新たな示唆的な意味が生まれているかもしれない。


【この動画の価値】

YouTubeには個々人の日常の記録映像が集積される場として資料的価値がある。記録映像には単なる日常だけではなく、重大な出来事が起こった瞬間も含まれる。その重大な出来事そのものを映したものを1次的とすれば、その出来事を知った瞬間やそのことについて論じているものを映したものは2次的といえる。1次の映像はこの世に1カ所だけだが、2次の映像はそのニュースを知った人の数だけ存在する。「同じ月を見ている」的なロマンだ。人は月を地球上のあらゆる場所でそれぞれの事情を抱えながら見ている。そんな名もなき一般人たちの月を見る“視点”を簡単に借りられるようになったのは、YouTubeの普及がもたらした革命の1つだといえる。

受験に落ちた瞬間、親しい人物の死を知った瞬間、大好きなアイドルの熱愛記事を見た瞬間など、衝撃的なニュースを知った瞬間の人の記憶は、そのときの場所と深く結びつけられる。その結びつきを自分のことのように疑似体験できるのはYouTubeならではであり、YouTubeは他人の視点に乗り移りながら世界中をワープ&タイムリープできる、「イタコ」「どこでもドア」「タイムマシーン」を融合させたような装置なのである。

「Michael Jackson の死を知った場所」は、そんな無数の視点の1つだが、その中でも独特な魅力が付加されている。特に大きいのは、20秒の短い映像の中に「誰もが知る世界的スターの死というショッキングなものであること」と「新幹線の車内電光掲示板という、今は無きものの姿が映されていること」という“2つの死”が内包されている点であろう。新幹線の車内電光掲示板による「文字ニュース」の配信は、スマートフォンや無料Wi-Fiの普及により、2023年3月末までにすべての路線で終了した。つまり、死んだものが死んだものを伝えているという二重構造になっており、強い喪失感をまとった強大なノスタルジーになっているのだ。上述した“ノスタルジードーパミン度”が危険レベルで高いように思える。ここに新幹線の中という非日常性から生まれる高揚感もプラスされ、総合ドパ含有量がすさまじいことになっている。カフェインが危険なほどに含まれてしまっているエナジードリンクと同じだ。そんな映像に「Michael Jacksonの死を知った場所」というカッコよすぎるタイトルが付いているのだから、危ういほど完璧な魅力を放っているのか? 皆さんはどう思うか。


2026年6月1日月曜日

「独断!日本の全音楽グランプリ2026」5月の良かった30曲

 


121. 佐野翔馬 - noⅠd

122. 犯蔵 - 大漁旗

123. 湊戸千尋 - アホなホーマイハンド

124. もりへもりへ - ともだちだと思う

125. ゲーカーナトゥミ - 広告主

126. Yousuke Fuyama - SUPER MARIO BORS. MIRROR World

127. BREIMEN - めんどいな... 

128. SHY - ウワサのシャイガール

129. ハラホログラム - 自由を取り戻せ

130. YUNGSTAお仲間 - 説法

131. wood pure luvheart - ロングセラー

132. valknee - Tombeau

133. Kiwy - day&nite (feat. TOTOROW)

134. tobiuo studio feat. SaToA - Light (tobiuo studio Remix)

135. テクモリス - STICKER

136. Laiqa - DOG

137. Jumping Kiss - わがままチーク

138. Sea otter club - メロンソーダの雨模様

139. 鈴木 諭 - 厭世・秋田音頭

140. シアン化合汚物 - 泡沫の夢

141. OCHA∞ME - アイリメ - I remember -

142. Penguinrush - ほどけて、おどけて

143. もぐわなちゃん_MoguwaNar - アゲナスマイル

144. Wan Tang わんたん - やさぐれOLダート重馬場

145. particlesfloatingintheair - 逆遠近法(夜明け)

146. デカりぼん - 人間牧場

147. hjjjsn - シーサイド

148. PDF WEB SECOM - ゲルキエフの街

149. Spectacle Markets - TOMAHOPPER VV

150. 今野英明 - シアワセ





【各曲の感想】

121.佐野翔馬 - noⅠd

全部壊れていて美しい。解説を拒んでくる。


122.犯蔵 - 大漁旗

言葉の譜割りがなんか変(圧倒的に良い意味で)。昔の曲も漁ったが、今よりも正統派だったので、いろいろわかった上で現在のぶっ飛んだ感じになっているのかなと思い、胸が熱くなりました…。


123.湊戸千尋 - アホなホーマイハンド

このように聴けば聴くほど肩の力が抜けていく曲は、大切。途中ちょっと笑ってませんか。音楽を半笑いでやっているのは結構好きです。


124.もりへもりへ - ともだちだと思う

トラックはもちろん、歌詞やミュージックビデオも含めて、1つの素晴らしい芸術作品という感じで良かったです。


125.ゲーカーナトゥミ - 広告主

音自体はインダストリアルな雰囲気なのですが、仕上がりはそれとは真逆の軽やかさがあって、この両面性が響きました。


126.Yousuke Fuyama - SUPER MARIO BORS. MIRROR World

作曲家、プログラマー、オーディオビジュアルアーティストのYousuke Fuyama氏が「マリオのステージが鏡映しになっていたらどんな感じか」という好奇心で生み出した映像作品。「音源の主要なスペクトル成分を反転させ、累積エネルギー 5% 地点  = F_low、累積エネルギー 95% 地点 = F_highとして音源の中心的・主要な帯域を反転している」とのことです。映像作品のようですが、bandcampで音源も配信されているので、音楽扱いで選ばせていただきました。「無断転載を禁じます」と書かれていたので、ぜひ下記URLから体験してみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=VE_bV1mkkKI

https://yousukefuyamax.bandcamp.com/album/super-mario-bors-mirror-world


127.BREIMEN - めんどいな...

音がかっこいいです。キムタクのように「ちょ待てよ、ちょ待てよ、ちょ待てよ」と言うところも良いです。キムタクは「ちょ待てよ」を連呼しませんが、別に連呼してもいいわけですよね?


128.SHY - ウワサのシャイガール

サビ前の「あれれ あれれ あれれ あれれ」のところを聴いているとなんだか力が抜けていきます。悪い意味で。しかし「悪い意味で肩の力が抜ける」という感覚が心地良いと思ったので選ばせていただきました。


129.ハラホログラム - 自由を取り戻せ

シンセの連打感がThe Chemical Brothers「Star Guitar」っぽいなと思ったのと、キラキラした感じが1000say「LOSTMAN」っぽいなと思ったのですが、もちろん「っぽい」というだけではなく、独特なs m e l l も存分。キラついてます。パソ


130.YUNGSTAお仲間 - 説法

なんかよかったです。説明が難しい。


131.wood pure luvheart - ロングセラー

ダラダラとしゃべってちょっとはみ出すみたいなフロウが好きなのですが、それをめっちゃやってくれていて、もちろん僕のためじゃないのはわかってますが、うれしかったですね…。これ関西弁のイントネーションと相性バッチリなんですよね。


132.valknee - Tombeau

死ぬことをあんまり重大に捉えてない感じがよかったです。こういうのに救われることって結構あるんですよ。


133.Kiwy - day&nite (feat. TOTOROW)

TOTOROWさんは新潟の重鎮ラッパーの1人。ハーコーな曲が多いイメージだったんですが、この曲ではメロウなトラックとの相性が抜群。ちなみにMCバトルでもすごくカッコいいんです。

https://www.youtube.com/watch?v=3DkrpZzAv5g


134.tobiuo studio feat. SaToA - Light (tobiuo studio Remix)

最近、いろいろ考えた結果、「日本で一番イケてるバンドはSaToAなのかもしれない」という結論が出そうでして、実際SaToAに痺れまくってしょうがないんです。前から好きだったんだけど、急にすごく夢中になっちゃったみたいな感じです。その中でもお気に入りだった曲の1つ「Light」のRemixです。正直……原曲のほうが好きではあるんですが、こちらも原曲にはない新たな魅力が生まれていて、とても良かったです。軽やかな原曲がさらに軽やかになっていて、一撃で雲に到達する5gのバネというか……。


135.テクモリス - STICKER

テクモリスの新作EP「MAKING MUSIC」は過去作から結構雰囲気が変わったなという印象でした。というか重みと厚みが増して僕好みになってました。もちろん僕のためにそうしてくれたわけではないことはわかってるんですが、うれしかったですね……。中でも「STICKER」は切れ味が鋭くてオススメ。ギターでは「ジャーン」よりも「ジャジャジャジャ」という弾き方が好きなんですが(抽象的ですみません)、この曲は「ジャーン」のカッコよさがすごくて、認識を改められそうな勢い。


136.Laiqa - DOG

愛犬に宛てたラブソング「DOG」。ピアノと歌のメロディが良かったです。猫派の僕も、この曲を聴いてるときだけは犬派になってしまいそうです。いや、でも実際は「派」とかないのか……。勝手に分けてるだけで。


137.Jumping Kiss - わがままチーク

Jumping Kissは2020年にリリースした2ndシングル「恋は雨上がりにまかせて」が良かったのですが、それから6年が経ってしまいました。アイドルソングにはあまりないリズムの取り方で、バキッとしていて良かったです。


138.Sea otter club - メロンソーダの雨模様

海のメルヘンという感じでよかったです。海のメルヘンだとなんで良いのかうまく説明できないですが、楽しいという気持ちは嘘偽りないかもしれないです。


139.鈴木 諭 - 厭世・秋田音頭

秋田音頭を日本最古のラップと捉え、かなり実験的にアレンジをした曲。東北地方のパワーを怪しくクールに表現しています。方言を取り入れた曲の中で最高峰のカッコよさだと思いました。


140.シアン化合汚物 - 泡沫の夢

枯れた声と金管楽器のハーモニーが良かったです。ザラついた印象なのですが、落ち着いて聴きなおすと、1つ1つはクリアなんですよね。だからもう、自分のあれがよくわからないし、(このあとの文章が出てこなかったので、ここで終わりますが、とにかくめっちゃカッコいい曲です)


141.OCHA∞ME - アイリメ - I remember -

戦争や虐殺の歴史を忘れないというテーマの曲だそうです。メロディがすごく良かったです。「私やあなたの人生は、誰かのものじゃないよ」とのこと。ほんそれ、ですね。


142.Penguinrush - ほどけて、おどけて

リズムがころころ変わっていく感じが楽しかったのと、メロディが良かったです。サビで切なさが増すんですね。


143.もぐわなちゃん_MoguwaNar - アゲナスマイル

お寿司屋さんの揚げ茄子がすごくおいしかった感動を、曲にしたもの。素晴らしい。音楽ってこういうことだから。実は私も先月、お寿司屋さんで揚げ茄子を食べて、おいしくて感動したんですね。それを誰かが歌にしてくれたこと、幸せです。僕を幸せにするために作ったわけではないことは当然理解していますが、それでもうれしかったっすね……。AIで作ったような質感のトラック、少し高音が耳にキツいボーカルのミックスなど、気になるところは多数ありますが、だから何?みたいな。


144.Wan Tang わんたん - やさぐれOLダート重馬場

Wan Tang わんたん氏は「仕事に疲れたOLが競馬場でやけくそになる」というストーリーの曲を複数作っていて、ご本人としてはその物語性が堪らないんだと思います。こういった「フェチ」に突き動かされた音楽は唯一無二のオーラと凄みを放っています。「やさぐれOLダート重馬場」がリリースされたときは、「え、また仕事に疲れたOLが競馬場に行く曲作ってる!」とビックリしましたが、この類の曲を何曲も作ってるおかげで「仕事に疲れたOLが競馬場に行く」ことの哀愁を非常にうまく表現できちゃってるんですよね。僕も同じテーマの曲を量産して、そのテーマでは他の追随を許さない、みたいなものを何個か作ったほうがいいのかもしれません。


145.particlesfloatingintheair - 逆遠近法(夜明け)

まず曲名かっこよすぎ。この不安定な旋律は「プレイステーション初期のマイナーゲームのダウナーなステージで流れるBGM」のようにも、「廃業寸前の地方の子供科学館の、汚泥ステージで流れるチープなBGM」のようにも聞こえますが、どっちも不正解で、しかし不正解をイメージさせるパワーを持っているともいえますか。


146.デカりぼん - 人間牧場

デカりぼんというバンドを初めて知りましたが、ビジュアル含めて、めちゃ×2イケてますね。「村八分」のライブ映像も良い。この感じを満たしてくれるバンド、最近あまりいなかったのですが、デカりぼんの出現により、ますます音楽鑑賞が楽しくなりそうです♪


147.hjjjsn - シーサイド

配信サイトでは「シーサイド」というタイトルで配信されているのですが、YouTubeの動画だと「グッバイ、シーサイド」というタイトルになっていて、どっちが正しいですか。「グッバイ、」は付きますか、付きませんか。付けたあとに外しますか。曲は、波打ち際の切なさが表現されていて、素敵だなと思いました。


148.PDF WEB SECOM - ゲルキエフの街

ずっと変な声が鳴っていて怖かったです。途中呻くところとか、けっこう「うわ、すごいな」みたいな感じになります。


149.Spectacle Markets - TOMAHOPPER VV

曲調がどんどん変わっていくんですが、どのパートもカッコよくて、100発100中のダンクシュートのような快感がありましたね。


150.今野英明 - シアワセ

しみじみ聴けました。温かみがある曲なのですが、改めてちゃんと聴くと意外とシンセチックで、「あれ、シンセチックだ」と思いました。シンセチックでセンチメンタル。でも温かい声。病院にある何かに例えられそうで、例えられない。